生産者が体験コンテンツを生み出すために。KOBE NOU-GYO Lab 2025を振り返って
2025年に始動した「KOBE NOU-GYO Lab」(以下神戸農漁ラボ)
農家さんや漁師さんが“体験プログラム”をつくることで、もっと一次産業に関心をもつ人、一次産業に関わる人を増やそうという取り組みです。
2025年度は11のプログラムが実現に向けて動き出しました。
今回は、神戸農漁ラボ事務局による、半年間の伴走支援の振り返りです。
「神戸に農漁業がある」という当たり前を、どう知ってもらうか
鶴巻: 神戸の農村地域で、移住や創業、就農の入口づくりをしている鶴巻です。今回の神戸農漁ラボでは、事務局やコンテンツづくりのサポートスタッフとして関わらせてもらいました。事業も一段落ということで、今回は振り返りや体験コンテンツをつくっていくポイントなどをお伝えできればと思います。
岩本: 神戸農漁ラボの責任者であり、普段は神戸の長田を拠点にプロデューサーやカメラマンをしている岩本です。まずは今回のプログラムの全体像からおさらいしましょうか。神戸農漁ラボは、神戸の農家や漁師などが“体験コンテンツ”をつくることを、デザインやアイデアでクリエイティブにサポートする取り組みです。今年度は、最終的に11組の生産者さん(農家6組、漁師5組)が手を挙げてくれました。2025年7月末からヒアリングをスタートして、伴走支援を行ってきました。そもそもの話ですが、神戸の農漁業のここ10年くらいの取り組みや課題感を共有しましょうか?
鶴巻: 農業に関しては、大都市神戸三宮からすぐ近くに農村があり、たくさんの農産物がつくられています。都市部でのファーマーズマーケットや農村部への移住施策、また就農条件の緩和などにより、10年前と比べれば神戸の農村や農業はだいぶ認知されるようになってきたのではないでしょうか。ただ、農産物を売るだけでは収益を上げ続けるのが難しい農家が多いという現実も変わらずあります。そこに”農に関わる体験”を生み出すことで、農家の一つの収益の柱をつくれないかというのが発端で、市としても数年かけて取り組まれています。

岩本: 漁業は、「神戸に漁業があること自体が知られていない。」という課題がありました。またいかなごの不漁などの環境変化もあって、これまでの”獲って売る”モデルだけでは後継者を育てるのも難しい。だからこそ、消費者に直接現場を見てもらい、“体験を通じて価値を感じてもらいたい”というニーズがありました。

誰かと進めていくからこそ分かる、生産者の“強み”
鶴巻:当初、僕たちの想定だと、やりたいことが明確にあったり、既に体験コンテンツをやっているけれどお客さんが来なくて困っているという方が申し込むのかなと思っていました。ただ実際ふたを開けてみると、やるかやらないかもまだ未定だけど、こんなアイデアは考えてるんですという応募が多かったかなという印象です。植えた苗を大きくするのではなく、種が芽を出すところからサポートする感覚といいますか。
岩本:そうですね。どちらかというと、漁師のみなさんの方が課題感はクリアだった気がします。例えばいかなごの不漁により釘煮づくり文化がなくなっている中で、それを残したいとか。また兵庫運河では、漁師さんが環境学習や視察を受け入れているけれど、収益化や受け入れる仕組みができていないから混乱しているとか。ゴールが見えやすかったのはあります。

鶴巻:今回の伴走支援は、集団でセミナーなどを実施するという形ではなく、一組ごとに個別でサポートしていく形を取りました。最初のヒアリングで意識したことはありましたか?
岩本: 当たり前ですが、まずお話をしっかり聞くことですね。体験コンテンツをつくる目的は何なのか。実際にやっていくとなると、面倒なことや手間がたくさんある中で、目的や課題感がクリアにならないと続けられません。そして個人的に思っていたのは、一発のイベントをつくることではないと。継続性がないと課題の解決にならないし、収入の選択肢を増やすことにもなりません。想いの源泉がどこにあるのかを確認していった気がします。
鶴巻:印象的だったのが、生産者の体験コンテンツへの「Why?」がしっくりくることです。創業プログラムなどのプレゼンでも「What?(何をするのか)」はみなさん考えるのですが、なぜその人がそれをするのかが見えにくいというフィードバックが多い傾向があります。農漁業者のみなさんの「Why?」は全部しっくりきたなと思って。
岩本:やっぱり生産者のみなさんは地に足がついてるんだと思います。漁業も農業も、土地と身体が一体化しているので、必要なものというか想いは強くなるような気がします。生産者が体験コンテンツをつくることは、すごく魅力的なものができるんじゃないかなと改めて感じました。
体験型コンテンツを生み出すコツ1
「なぜコンテンツをつくるのか、目的を明確にすること」

鶴巻: 加えて興味深かったのがもう1つ。こうやって第三者がヒアリングすることによって、コンテンツの中身そのものの話ではなく、例えば「将来的にどんな作物をつくるべきか迷走している。」といった大切な問題意識を打ち明けてくれたことです。それに対し質問をしていくと、応募の段階で思っていたことと全く別のゴールになっていくことが多かったんです。自分たちが整理することに関われたのはうれしかったですね。
岩本:自分ではこうじゃないかと思っていても、外に出してみると、あなたの魅力や強みはもっと別のところにありますよってことは多いです。なので、2~3回目くらいのヒアリングまでそういうやり取りをした生産者さんもいました。
鶴巻:そう考えると、やはり餅は餅屋ではないですが、生産者が自分だけでコンテンツをつくっていくことが本当に現実的かというと、そうでもないような気がしました。
岩本:そうですね。もちろんアイデアを考える必要はありますけど、それを誰かに聞いてもらって意見をもらう。生産者側からすると大したことないと思っていることが実は体験として価値があったり、逆にニーズとズレている場合には軌道修正も必要です。

鶴巻:僕は農村側の人間なので、漁師さんは自分にとっては未知の人たちなんです。コンテンツを考えるにあたり、いかなごの釘煮をつくるとか、魚を捌くといったメインのことにどうしても目がいきがちです。でも、その周辺にある漁港の見学とか、どんな魚が獲れるかとか、漁師さんの仕事や船のことなど、そういうことを知ることが実はすごく楽しい。これは当事者がなかなか気付けない観点なんですよね。
岩本:今回は、その役割がクリエイターなのかもしれません。 農家同士、漁師同士のつながりももちろん大事だけど、異業種というか、都市部で生活している友達とかでもいいと思いますが、相談ができる仲間がいてくれるといいですね。
体験型コンテンツを生み出すコツ2
「一人でやらない、仲間をつくること」

鶴巻:仲間に加え、リサーチも大切ですね。コンテンツの開発を進めていく上で、全体的に事前のリサーチはもっとやってもいいのではと思いました。
岩本:そうですね。今回僕らからも「こんな事例がありますよ。」ってたくさん提示しましたが、インターネットから拾えるものも多いです。一次的なリサーチとして、自宅でもスマホやパソコンが1台あればできることは習慣にしてしまうといいですね。
鶴巻:そんな中、自分が実施する体験コンテンツの類似イベントに参加して学んできた方もいました。実際に現場に足を運んで情報を取りにいくことは重要です。自分の内にあるやってみたいことや強みを活かすためにも、似たような事例から学べることはないか、他の観点はないかなど、もっともっとリサーチを活用できると前に進む推進力になりそうです。
体験コンテンツを生み出すコツ3
「類似例を調べて、可能なら現場を見に行くこと」
岩本:そうしたことを僕らは“宿題”と呼んでいましたけれど、次のミーティングまでにこれをしておいてくださいねっていうのを大体3~4週間スパンで設定してやっていただきました。普段はどうしても忙しいからと優先順位が下がっていってしまうことを、誰かと一緒にやることでタスクとして進めていく。期限を切っていくことも前に進むポイントではないでしょうか。
体験コンテンツを生み出すコツ4
「仲間とスケジュールを設定し動いていく」
体験コンテンツを生み出し、将来的にどう活用するかを整理する
鶴巻:ヒアリングを通じて、具体的なサポート内容を決めていきました。今回のサポートの建付けとしては、それぞれの生産者にサポート費用を捻出して、その中でデザインや仕組みづくりのフォローを行っていくというものでした。やってみて、当初の仮説に近いサポート内容だったか、想定外だったか、どんな感じですか?
岩本:想定外のことも多かったですね。当初の想定は、記録写真やパンフレット、そのパンフレットをつくる上でのテキストを制作したり、旅行業や食品衛生法的な法律や許可関係のサポートを想定していました。そこにクリエイターや専門家に関わってもらうことで関係性をつくり、今後の活動を継続できる基盤ができたらと思っていました。ただ、フェーズがバラバラだったので、何をサポートするかはかなり広範囲でした。什器をつくることもあれば、教育機関向けのパンフレットという二ッチなところまで。

鶴巻:誰にどう届けるかで、こんなにも最終的なゴールの選択肢があるのかと思いました…(笑)
岩本:大きく分けると、まずは観光や視察で訪れる人とのタッチポイントになるOTA(オンラインの体験マッチングサイト)に載せましょうというパターン。あとは自社の簡単なウェブサイトやSNS用の広報画像、パンフレットなどをつくって自分で集客するためのサポート。3つ目は、コンテンツに来てくれた人を充実させるためのデザインや仕組みづくりでしょうか。
鶴巻:それぞれのサポート内容についてはぜひ各生産者さんの体験レポートを読んでいただきたいのですが、1つ共通のものとして挙げたいことがあります。僕はクリエイター属性ではないので純粋に感じたこととして、一番最初に整えるといいものって“写真”なんだなと。今回は全ての生産者さんのプロフィール写真や体験コンテンツの写真を撮りました。いい写真さえあれば、それは後でいくらでも展開できる。パンフレットにも、SNS画像にも、HPにも。写真を並べるだけでSNSで十分広報もできますし。本質から外れているかもしれませんが、とても魅力的なことをしていても、それが伝わっていないというケースも多い気がするんです。
岩本:世の中の情報量が増えすぎていっている中で、流れてくる情報に対して即座に取捨選択をするようになっています。ショート動画だったら5秒ぐらいでおそらく60~70%の人が離脱をしてしまう中で、写真は見た瞬間に伝えられる情報量はあります。端的にどういうことやってるか伝えるのにいいツールではありますね。

鶴巻: もう一つ共通のことでいくと、体験コンテンツを実施することによる売上や金銭的なことも少しお話できれば。
岩本:今回サポートしてみて、いくつかのパターンがあるような気がします。
鶴巻:1つ目が、日当的な収入を得ることです。例えば準備片付け含め半日の対応で、参加費5,000円で参加者が4人来てくれると20,000円になります。経費を引いてざっくり15,000円くらいが残るように設計します。農家であれば、150円とか200円の野菜をたくさん売っていく仕事なので、そのような形で収益が見込めると、農業事業の収益のひとつとしていける可能性はあります。2つ目は、生産者を知ってもらう入り口として体験コンテンツを活用することです。生産者とつながることで、その後に野菜セットの定期購入など、継続的なファンを増やすという使い方です。
岩本:そして当然ハイブリッド型もあります。ある程度の利益は残しつつ、新規のお客さんにもなってほしいという。
鶴巻: 伴走してみて面白かったのは、農家と漁師のスタイルの違いですよね。
岩本: 本当にそうですね。今回応募いただいた農家は基本的に“ソロプレイ”。一人一人が自分の畑に向き合っている。それに対して漁業者は、船を出したり海苔を養殖したり、組織として動く“チームプレイ”が前提にある。どの形でも正解不正解はないですが、体験コンテンツをどう活用するかはちゃんと整理してあげたほうがいいなと思いました。体験コンテンツを実施していくことで、どういう状況を生みたいのかっていうことを忘れないようにしておくことがすごく大事。広げる戦略なのか、囲い込む戦略なのか。

鶴巻:どういう目的か、どこで利益を回収していくのかっていう考え方を組み合わせたら、体系化できる気も。
岩本:そうですね。一方の極にあるのは、フィッシャーマンズマーケットのような不特定多数の人がたくさん集まって漁師さんとも軽く接しながら美味しいものを食べるような形。反対側の極は、定期的に畑にやってきて農家と日常的な関係性があり、野菜もずっと買ってくれるような形でしょうか。ではイチゴ狩りのような観光農園はどこにあたるのか?など。これを体系化していけば、もう少し見えてくるものやゴールのイメージが分かりやすくなるのかもしれません。ゴールを考えることで、コンテンツを実施した際に成功したのか、改善点があるのか、見極めることができるようになります。例えば、多くの人に参加していただくことで目的を達成したか、それとも参加者は少なくても一定の収入があればいいのか、これらをクリアにすることが継続するモチベーションを維持することにつながるのかなと。

体験コンテンツを生み出すコツ5
「実施前に評価指標を決めておく=参加人数、売上、満足度?」
説得力のある体験コンテンツを、続けていくために
鶴巻:最後のまとめとして、改めてサポートをさせてもらって感じたことを 。
岩本: 生産者のみなさんがやろうとすることは、取って付けたことではないということです。説得力もあるし、実際にやっている風景を見ていてもすごく魅力的に感じます。これを多くの人に味わってほしいです。生産者はコンテンツメイカーでいられると理想的ではないでしょうか。一次産業コンテンツに特化した旅行会社みたいなものができて、そこが企画を集約して販売するような状況まで押し上げていけるといいですね。もっと点在化させていってシーンをつくりたい。
鶴巻: コンテンツ自体は、どれもすごくいいものが出来上がってきた実感があります。一方で、今後も各生産者が自分で広報して継続的にやっていけるのかなっていう不安はあります。不安というか、広がっていくのかなというもどかしさ。
岩本: 自分一人で何でもやるには限界があるので、顔の見える関係性で付き合っていければいいと思うんです。クリエイターという横文字の肩書きの生き物ではありますが(笑)、よくわからんことを言ってくる外部の人間という捉え方ではなく、神戸市とか兵庫県というエリアの中で共に暮らしている人たちです。例えば写真を撮るっていう専門的なスキルを提供してもらう対価として、お金だけで交換するのではなく、米や野菜を渡す、季節になったら毎年イチゴ送りますとか、自分にできる中での関係性を模索してもいいですよね、お互いに。
鶴巻:大事なことは、継続することです。いきなりお客さんがたくさん来ることはないです。自分自身も10年前に芋掘り農園を始めた時、閑古鳥でした。今回は、初期投資をした段階なので、それを無駄にするのはもったいない。最初から無理な頻度を設定しないことも大切ですし、逆に最低限は目標を立ててやってみるというのも同時に大切なのかなと思います。
体験コンテンツを生み出すコツ6
「続けていくために、無理をしすぎない」
岩本:神戸の農漁業には、まだまだ可能性があります。僕たちも、この“種”がどう育っていくか、神戸に共に暮らすファンとして楽しみにしていきたいですし、引き続き何らかの形で応援していきたいですね。

